労務ニュース スマイル新聞

2015年10月 1日 木曜日

平成27年9月23日第394号

定額残業手当額を下回った場合の差額繰越

 昨今、定額残業手当にまつわるご相談が多くなっています。事業主は定額残業手当を支払っているが、労働者は時間外労働の賃金未払を訴えるケースです。
 

 定額残業手当制度を採用する場合、事前に時間外の労働時間あるいは手当額がどの賃金項目にどれだけ含まれているかといった説明が必要であり、書面上(雇用契約書、労働条件通知書、周知された就業規則等)にも記載が必要です。

 定額残業制度がきちっと運用され、計算も正確に行われていれば、表題のように当月余った定額残業時間を翌月以降に繰り越すことが可能でしょうか。
 

 平成21年3月27日東京地裁『SFコーポレーション事件』では、「月8万円の管理手当は割増賃金の内払いと認められ、繰越分の翌月に繰り越す旨の規定により未払割増賃金は存在しない。」という判例があります。

 また、フレックスタイム制における通達昭和63年の基発第1号では、「精算期間における実際の労働時間に不足があった場合に、総労働時間として定められた時間分の賃金は、その期間の賃金支払日に支払うが、それに達しない時間分を、次の精算期間中の総労働時間に上積みして労働させることは、法定労働時間の総枠の範囲である限り、その精算期間においては実際の労働時間に対する賃金よりも多くの賃金を支払い、次の精算期間でその分の賃金の過払いを精算するものと考えられ、法第24条に違反するものではないこと」とあります。例えば、当月実労働時間が規定労働時間に10時間不足した場合は、規定賃金を支払えば、次月規定労働時間に10時間を上乗せ可能となります。

 これらの考え方からすれば、定額残業手当の過払い分を翌月以降の不足分に充当するという取扱いも同様に考えられることができるように思われます。

 しかし、『SFコーポレーション事件』の判決は、あくまで地裁レベルの判決であり、確定的な判断ではないことや定額残業手当過払い分の繰越ができるかどうかが争点の裁判ではなかったこと、この判決を受けて国から通達やコメント等がなく、行政指導の方針が変わったことを確認できていません。また、フレックスタイム制の通達は法定労働時間の総枠の範囲内であることと限定されており、残業時間の繰越しができるとはされていません。そのため、残業手当は月単位で支給される賃金であり、毎月賃金請求権が発生するため、月を超えて平均化することはできない、つまり定額残業手当の差額繰越はできないとする従来の見解のまま、毎月精算する制度にしておくことが無難です。

 また、定額残業手当制度であっても、時間外計算は毎月必要であり、繰越充当するのであれば、さらに繰越充当時間の管理も必要となってきます。このことを考えれば、企業における運転資金の資金繰りという点では平準化というメリットがありますが、事務の効率化という点では逆効果のようです。 

(スマイルグループ 社会保険労務士)


投稿者 イケダ労務管理事務所

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