人事労務基礎講座

第十二回「就業規則の周知方法」 2011/01/10


 従業員より就業規則を見せて欲しいと言われ、対応に困惑した坂本社長。早速、どのように対応すればよいか、社労士に相談することにした。

【木戸部長】
 先生、こんにちは。昨年は大変お世話になりました。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

【社労士】
 こちらこそよろしくお願いいたします。今日は、就業規則のことでご相談があるとお聞きしましたが、どのようなことでしょうか?

【坂本社長】
 はい。先日、従業員より突然、「会社の就業規則を見せて欲しい」と言われました。このようなことは初めてなので困惑してしまったのですが、会社としては就業規則を見せる必要があるのでしょうか?

【社労士】
 なるほど。結論としては、就業規則の内容は従業員に見せなければなりません。

【木戸部長】
 そうなんですね。恥ずかしいのですが、就業規則は私の机の中にしまってあり、いままでも従業員に見せたことはありませんでした。こういった状況では問題があるということなのですね。

【社労士】
 そうですね。現実的には御社と同様の状態にある中小企業は少なくないと思いますが、法的には問題ですね。労働基準法においては、常時10人以上の従業員を雇用している事業場については、就業規則を作成する義務があります。そして、作成すれば良いというだけではなく、意見聴取、届出、そして周知の義務が課せられています。

【坂本社長】
  当社では労働者の過半数代表に意見を聞いて、労働基準監督署に届出はしているので、周知義務のところができていないということですね。

【社労士】
 そういうことになります。それでは就業規則の周知義務の内容についてもう少し詳しく解説しましょう。労働基準法は、会社に対して就業規則の内容を従業員に周知しなければならないと規定していますが、周知の方法については、次の3つのうち、いずれかの方法をとる必要があります(労働基準法施行規則第52条の2)。
 (1)常時各作業場の見やすい場所に掲示し、または備え付ける
 (2)書面を従業員に交付する
 (3)磁気テープ、磁気ディスク等に記録し、従業員がその内容を常時確認できる機器を各作業場に設置する

【坂本社長】
 つまり従業員が就業規則を確認したいときに、いつでも見ることができるようにしておく必要があるということですね。

【社労士】
 そのとおりです。総務部長の机の引き出しの中で保管されている状態では、周知されているとは言えません。近年は社内のネットワーク環境が整備されている企業も増えていますので、従業員がパソコンからサーバにアクセスして就業規則を確認できるようにしている企業もあるようです。

【木戸部長】
 なるほど。当社では、全従業員がパソコンを使えるという状況ではないため、本社と工場のそれぞれに、就業規則のファイルを備え付けるという対応が実務的だと思います。

【社労士】
 それがよいですね。さて、これまで「就業規則」とお話してきましたが、実務上はその範囲についても注意が必要です。というのは、周知の対象となる就業規則には、賃金規程などの別規程も含まれるからです。そもそも就業規則には「必ず記載しなければならない事項」と「定めをした場合に記載しなければならない事項」があり、賃金規程は必ず記載しなければならない事項に該当しています。

【木戸部長】
 なぜ、別の規程になっているのでしょうか?

【社労士】
 本来であれば就業規則の中で賃金について定めを行うことになりますが、その場合、就業規則のボリュームが大きくなってしまいます。そのため、便宜上、賃金制度の内容については別規程として定めている例が多くなっています。この他にも退職金規程や育児・介護休業規程などもありますね。

【坂本社長】
 会社としては、賃金規程や退職金規程なども含めて、就業規則の周知を行う必要があるということですね。よくわかりました。

【社労士】
 就業規則は、従業員の賃金や労働時間などの労働条件、従業員に期待することや従業員として守らなければならない職場の規律などの明文化したものとなります。つまり、その会社で働くためのルールブックですから、会社としては従業員に就業規則の内容をきちんと理解してもらうことが求められます。また、新入社員が入社した際に、就業規則の内容を理解してもらうために教育の機会を設けることは、周知をする上で効果的ですね。
 
【木戸部長】
 なるほど、4月に3名が入社してきますので、オリエンテーションで時間をとって就業規則の説明を行ってみます。


>>>次回に続く


就業規則を作成する際、会社は従業員代表の意見を聴く義務がありますが、この「意見を聴く」とは文字通り意見を求める意味であり、同意を得る、協議するということまでを要求しているものではありません。意見を聴いた結果、その意見を採用するのか否かは、最終的に会社が決めるところとなります。また、パートタイマー就業規則を作成する際についても、従業員代表の意見を聴く必要がありますが、この場合、会社にはパートタイマーの過半数を代表する者の意見を聴くように努めることが求められています。


※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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