旬の特集

2011/01/10

平成23年4月1日から、従業員数101人以上300人以下の企業についても、仕事と子育ての両立を図るために必要な雇用環境の整備を進めるための「一般事業主行動計画」の策定・届出、公表・周知が義務付けられます。そこで今回の特集では、「一般事業主行動計画」の策定・届出、公表・周知をスムーズに進められるように、ステップ毎にそのポイントを確認しておきましょう。

[義務化される一般事業主行動計画]
 少子化が、我が国の深刻な社会問題と言われて久しいですが、その対策として平成15年に次世代育成支援対策推進法(以下、「次世代法」という)が制定されました。この法律では企業に、仕事と子育ての両立を図るための必要な雇用環境の整備等を進めることを義務付けており、企業はこれを達成するために「一般事業主行動計画」(以下「行動計画」)」の策定・届出、公表・周知を行わなければならないとされています。これまでこの行動計画の策定等は、従業員数 301人以上の企業に義務づけられていましたが、平成23年4月1日からは、従業員数101人以上300人以下の企業についてもその範囲が拡大されます。

[企業が行うべき行動計画の策定等]
 従業員数101人以上の企業にも義務づけられる行動計画の策定等とは、以下の5つの事項を言います。

  ①行動計画の策定
  ②行動計画の公表(平成21年4月1日以降に策定・変更した計画のみ)
  ③行動計画の周知(平成21年4月1日以降に策定・変更した計画のみ)
  ④都道府県労働局に行動計画を策定した旨の届出
  ⑤行動計画の実施

 従業員数101人以上300人以下の企業で、まだこれらを行っていない場合には、改正次世代法が施行される平成23年4月1日までに①から④までの事項について対応する必要があります。

[行動計画策定のステップ]
 行動計画の策定は、以下の3つのステップで行います。以下ではその概要について解説していきましょう。
  【Step1】自社の方針を明確にする
  【Step2】自社の現状・従業員のニーズを把握する
  【Step3】行動計画を策定する(①計画期間の設定、②目標の設定、③目標達成のための対策の設定)

【Step1】自社の方針を明確にする
 行動計画の策定においては、経営者が自社の取組方針を明確にし、人事戦略の一つとして位置づけることが効果的です。実効性が高い計画策定のためには、経営者自身がその前提となる取組方針を決めることが望まれます。

【Step2】自社の現状・従業員のニーズを把握する
 仕事と子育ての両立に関する支援状況は、業種、従業員数等により様々です。このため、計画策定にあたっては、自社の現状を把握し、これに沿った計画を立てることが重要です。具体的には「妊娠・出産を機に退職する社員がどれくらいいるか?」や「育児・介護などを理由とした退職者はどれくらいいるか?」といった現状を把握することが求められます。また、実態を調査するのみではなく、アンケートやヒアリングを実施して従業員のニーズを把握することも考えられるでしょう。対象は子育て中の社員のみではなく、独身の社員や育児休業中の社員が所属する部署の上司等、幅広いニーズを取り入れて実現できる行動計画の策定を目指したいものです。

【Step3】行動計画を策定する
 策定する行動計画には以下の3つの事項を盛り込む必要があります。
①計画期間の設定
  まず行動計画の期間を設定します。期間の長さに定めはありませんが、経済・社会環境や従業員のニーズを踏まえて策定することが求められており、一般的には2年から5年の期間で設定することが望ましいとされています。

②目標の設定
  次に具体的な目標を設定します。【Step1】で明確にした自社の方針、【Step2】で把握した現状や従業員のニーズを元に具体的な内容を決定します。この目標はいくつ設定しても構いません。十分に活用されていない既存制度の活用促進や新たな制度の導入など、企業の実態に沿った内容を設定する必要があります。なお、行動計画の具体的サンプルは厚生労働省や東京労働局をはじめとし、多くの都道府県労働局より提供されていますので、これらの情報を参考に目標の設定を進めるとよいでしょう。
 ■参考リンク
 厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/jisedai/index.html

③目標達成のための対策の設定
  最後に、目標達成のための対策を設定します。いつ、どのようなことに取り組むかを目標に沿った形で検討していきます。具体的には図1の例のように設定することが通常です。


図1:行動計画の例
 1.計画期間 平成22年4月1日から平成25年3月31日までの3年間
 2.目標 計画期間内に1人でも男性の育児休業取得者を輩出する
 3.対策
   平成22年7月 男性も育児休業を取得できることを周知するため、管理職を対象とした研修を実施する



[行動計画の公表・周知]
①行動計画の公表
 策定した行動計画については、その内容を一般に公表する必要があります。公表においては、自社のホームページへの掲載することや県の広報誌への掲載などが考えられますが、自社のホームページがない場合には、財団法人21世紀職業財団が運営している「両立支援のひろば」の利用を検討しましょう。こちらは無料で掲載することができます。
 ■参考リンク
 両立支援のひろば http://www.ryouritsushien.jp/

②行動計画の周知
 行動計画は一般への公表のほか、従業員への周知も行わなければなりません。周知の方法は、事業所の見やすい場所へ掲示することや書面を従業員へ交付することなどが考えられます。従業員が行動計画を認識することで、目標が意識され、具体的対策も進むと考えられています。

[都道府県労働局に行動計画を策定した旨の届出]

 以上のように行動計画の策定、公表および周知が完了した後は、都道府県労働局に行動計画を策定した旨を届け出る必要があります。この届出は専用の様式「一般事業主行動計画策定・変更届」で行いますが、行動計画そのものを届け出る必要はありません。

[行動計画の実施]

 策定した行動計画については、公表・周知の段階を経て、最終的には実施する必要があります。次世代法は、平成27年3月31日まで継続するものであり、行動計画の期間が満了した場合には、再度、新たな行動計画の策定等を行わなければなりません。

[子育てサポート企業としての認定]

 一定の要件を満たした行動計画を策定し、申請を行った企業は子育てサポート企業として厚生労働大臣の認定を受けることができます。認定を受けた企業は、次世代認定マーク(愛称:くるみん)を広告、商品、求人広告等につけることができ、子育てサポート企業であることをアピールできます。これにより企業のイメージ向上や社員のモラールアップなどが期待されるところでしょう。

 この認定を受けるためには、行動計画における計画期間を2年から5年にするなどの要件が設けられています。また、計画期間が終了した後にも認定基準を満たす必要があるため、行動計画策定時に認定基準を踏まえた内容で策定する必要があるでしょう。

 この行動計画は平成23年4月1日に都道府県労働局に届け出をしている必要があります。そのため、対象となる企業は平成23年の早いうちに策定準備を始める必要があります。当所でも一般事業主行動計画策定のお手伝いをしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

2010/11/10

一昨年の雇用危機においては「派遣切り」という言葉が生まれ、各種報道においては、労働者派遣が「雇用の不安定さの象徴」として大きく取り上げられたのは記憶に新しいのではないでしょうか。その後の労働者保護の動きの高まりによって、労働者派遣は大きな転換期を迎えようとしています。そこで今回の特集では労働者派遣法改正の動向について見ていくこととしましょう。

[労働者派遣法改正案の行方]
  労働者派遣法改正案は、先の通常国会に提出されましたが成立までは至らず、現在臨時国会で継続審議されています。「ねじれ国会」においては、その行方がどうなるかは分かりませんが、労働問題に力をいれる細川厚生労働大臣は「雇用のセーフティネットを考えればどうしてもやらなければならない法律だ」とし、この国会での成立に意欲をみせています。そこで今回は今後の雇用の調達に大きな影響を与えることが確実な労働者派遣法改正の動向についてお話しましょう。

[労働者派遣法改正案の具体的内容]
 現在審議が行われている労働者派遣法改正案の具体的な内容は以下のとおりとなっています。

1. 事業規制の強化
①登録型派遣の原則禁止
②製造業務派遣の原則禁止
③日雇派遣(日々または2ヶ月以内の期間を定めて雇用する労働者派遣)の原則禁止
④グループ企業内派遣の8割規制、離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者として受け入れることの原則禁止
2. 派遣労働者の無期雇用化や待遇の改善
①無期雇用への転換推進措置の努力義務化
②同種の業務に従事する派遣先労働者との均衡処遇
③いわゆるマージン率などの情報公開の義務化
④派遣労働者に対する一人当たりの派遣料金の明示
3. 違法派遣に対する対処
①労働契約申込みみなし規定の新設
②労働者派遣事業の許可等の欠格事由の整備

[労働者派遣は規制緩和から規制強化へ大転換]
 今回の労働者派遣法改正案は、なんといってもこれまでの規制緩和から規制強化への方針への大転換が最大のポイントとなっています。一般に労働者派遣法と呼ばれる法律の正式名称は、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」ですが、今回の改正案では、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護に関する法律」に名称を変更する案になっていることが象徴的です。1986年に生まれた派遣法は、施行からほぼ四半世紀が経過し、大転換期を迎えているのです。

[厚生労働省の動きと政令26業務]
 2010年2月に厚生労働省が打ち出した「専門26業務派遣適正化プラン」では、一般事務と混同されやすい事務用機器操作とファイリングについての指導が強化されたことが話題となりました。また、各地の労働局では、10月を派遣・請負適正化に向けた指導強化月間と位置づけ、派遣元・先に対して「政令26 業務の適正化」について、集中的に指導監督を展開しました。しかし実は労働者派遣法改正の歴史を紐解いていくと、26業務周辺が騒がしくなるのは、何も新しいことではないのです。

 今回の派遣法改正案においても、登録型派遣は原則禁止とされている中で、例外として26業務だけは、登録型派遣が可能という位置づけになっています。厚生労働省としては、今回の改正案が通ったとしたら、本来は26業務ではない業務を26業務として登録型派遣を続けようとする事業者の大量発生を予測して、先回りをして対応しているのでしょう。

[なぜ26業務だけが規制されないのか?]
 それではなぜ26業務だけが、派遣法上の規制が緩められているのでしょうか。1966年のマンパワージャパンの設立以後、続々と企業が参入していった派遣事業に対して、労働者供給事業の規制との関係上、法的な枠組み整備の必要性があるとして1986年に誕生したのが労働者派遣法です。

 その誕生に当たっては、「新規学卒者を常用雇用の形態で受け入れ、企業内でキャリア形成を図り、昇進・昇格を重ね定年に至るという日本的雇用に悪影響を与えないように」13の業務に限って(ポジティブリスト方式)派遣を認めたという歴史的背景があります。そこにおける「日本的雇用に悪影響を与えない」業務の選定基準としては、以下の2つが掲げられました。

1. その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務
2. その業務に従事する労働者について就業形態、雇用形態等の特殊性により、特別の雇用管理を行う必要があると認められる業務

 現在、26業務とされているソフトウェア開発や事務用機器操作は1.の基準によって、建築物清掃の業務は2.の基準によって派遣が認められ、また現在はこの1.および2.の理由から、「日本的雇用に悪影響を与えない」として、特別に派遣受入期間の制限を受けていないのです。

 労働者派遣の行方については今後、大きな話題となり、また企業にも大きな影響を与えることは確実です。更に労働者派遣法改正の後には、有期労働契約に関する規制強化も検討されています。ますます雇用のリスクが高まる時代となっていきますので、人事労務管理のレベルアップのためにも是非、私どもにお声をお掛けください。
※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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